九州アートディレクターズクラブ

BATON TALK

Posted on 2018-11-1

宮田さんからバトンを頂いた飛田(とびた)です。

 

宮田さん(私の中ではまだ中村さんですが…)とは,

薬院にある小さなお店で食事をしたときに初めて出会い,

「変わった人ですよね?」と言ったその会,

一度きりの出会いでした。

 

ですが、私は宮田さんの取り組み(松浦市の「青の大学」)に

興味を持ち,学生もぜひ一度話を聞きたいということで,

無理やり(?)時間を取ってお会い頂いたこともありました。

その後もずーっと気にはしていましたが、まさかバトントークが

回ってくるとは…。

仕事柄、文章を書くことに慣れてはいるものの,堅苦しくなく,

私自身のことを皆さんに興味を持って頂けるように,

一筆したためてみます。

 

私は福岡大学商学部の教員です。

大学で研究と教育を生業にしています。専門は会計学です。

こんな感じで「原価計算」という科目を教えたりしています。

 

あるいはこんな感じで学会報告したりしています。

 

そんな私がなぜ九州ADCの会員になったのでしょうか?

 

私は日頃から学生に「経営はデザインだ」と伝えています。

私は会計学の中でも管理会計と呼ばれる領域を専門にしていますが,

管理会計こそまさに「デザイン」が求められています。

 

組織構造,目標設定の仕組み,マーケティング,ビジネスモデル…。

教科書に基本的な形は書いてあるけれども,

実際にマネジメントをする時には

経営者は俯瞰的に,現場にいる人間は微に入り細に入り,

現象を捉えて判断することが求められています。

 

そのためには「数字で活動を見えるようにする」必要があります。

 

あるいは人(従業員,取引先,顧客)の心を動かすには

理念や哲学のようなものが求められますし,

なにより優れた製品やサービスが無ければ事業は成り立ちません。

 

「数字がなければ経営はできない」けれども,

「数字だけでは経営ができない」。

 

簿記・会計を通じて活動が見えるようにすると同時に,

その活動は人々が行うものだから心にも働きかけることが求められる。

 

管理会計という学問に求められているのは,

数字と心をいかにバランスさせて,進む方向を指し示し,

組織に属する人々にともにどこに進んでいくのかを伝えていくことです。

 

それはまさにデザイナーが具体的な事象を抽象化し,

ロゴやデザインに落とし込んでいく作業とよく似ている。

 

そのように感じています。

 

最近,山口周さんの『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』であったり,

ニール・ヒンディの『世界のビジネスリーダーがいまアートから学んでいること』

あるいは奥村高明さんの『エグゼクティブは美術館に集う』のように,

経営とアートの関係性を論じる本が多く発売されています。

 

また,MITメディアラボ所長の伊藤穰一さんがTEDトークの中で言われているように,

インターネット後の世界は低コストで事業を興せるけれども,不確実になっています。

 

伊藤穰一さんがこのトークでおっしゃっている

” Compass over maps”(地図ではなくコンパスを持て)とは,

「こうすれば目的地にたどり着ける」という方法論ではなく,

「とりあえずあっちに進む。進みながら道を探していく」ことが

求められているのだと理解しています。

 

だから,

モノゴトは計画通りに進まない。複雑にますますなっていく。

そうした中でアートやデザインが果たす役割はますます大きくなっていく。

 

これを学生にどう伝えていくか。日々,教育の現場でそれを試行錯誤しています。

 

近年,大学では製品やサービス開発の現場で「デザイン思考」と呼ばれる

考え方が教えられるようになってきています。

私のゼミナールでは

「社会課題をビジネスで解決しよう」

というテーマで製品・サービス開発をさまざまな調査を行って,

1年間という限られた時間の中で自分が設定した問いに対する

自分なりの答えを導き出すことを教えています。

 

例えば,

左利きの人用の筆ペンを開発しよう とか

カフェ目的で来る韓国人向けのカフェ情報ブロクを提供しよう とか

女子大生向けのオールインワン化粧品を企画開発しよう とか

 

大学生が持つ小さな「社会課題」をビジネスとして捉えると

どうなるか。

 

ここにも「デザイン」という考え方が大切になってきます。

 

課題を解決する。顧客が求める機能やサービスを実装する。

これもまた重要なデザインです。

 

こうした学生への教育をしていく中で,

梶原道生さんに講義をして頂いたり,

小林大助さんに講義をして頂いたり,

するようになっていきました。

 

プロのデザイナーから実際に話を聞いた学生は,

自分には絵を描いたり,ロゴを作ったりすることでは

何かを創り出すことはできないかもしれないけれども,

ビジネスにも「デザイン」が必要なのだということに気づくように

なっていきます。

 

そこで,梶原さんから

「デザイナーはデザインができるだけ,経営者は経営ができるだけはいけない」

という言葉を聞いて,私にできることは何かを考えるように

なりました。

 

私は自分の学校生活の中で美術や図工が大の苦手でした。

しかし,大学時代の4年間を学生ガイドとして京都で過ごし,

多くの国宝や重要文化財といった文化財に直接触れることの

できる贅沢な時間を過ごすことができました。

 

襖絵を描くにも,茶室を造る,路地を造るにも厳密なロジックがある。

 

これを学生時代に学べたことが今につながっているように感じます。

意味がわからなければ,ロジックを知らなければ,ただの上手い絵,

狭い部屋だけれども,見る人が見ればそうではなくなる。

 

私にできることは経営学あるいは会計学の研究者として,

デザインが持つ力を経営者や企業の担当者に正しく伝えること,

中長期的な未来につながる戦略的な判断を従業員にも顧客にも

わかりやすく伝えるためのデザインが求められていることを

デザイナーの皆さんにも知って頂くこと。

 

ロジックを学び実践する環境を創る。

 

これなのかなと考えています。

 

今日(11/1)は宮崎県日南市の油津商店街に来ています。

これは日南市出身の15歳の女の子がクラウドファンディングで

資金集めをして1ヶ月間展示を行っている「アンブレラスカイ」です。

この商店街で街と人との関わりを通じて学びながら,

自分で何ができるかを問い続けてできたのが,この取り組みでした。

 

デザインという言葉はさまざまな意味で使われます。

どんどん範囲が広く,多義語になってきました。

 

これも「街をデザインする」中で新たな担い手が生まれた

「デザインのかたち」ですよね。

 

デザインを社会に実装する。

 

デザインの持つ可能性がますます広がっていることを実感しています。

皆さんと何かを創り出すことができるようになれば嬉しいです。

 

やっぱり小難しくなってしまいました。

そして,長くなってしまいました…。

 

最後までお付き合い頂いた皆様,ありがとうございます。

こういう人もいるのだとお見知りおきください。

 

 

次回のBATON TALKは・・・

pass the baton!

あの背の高いイケメン男はナニモノだ。

矢野さんの第一印象はそんな感じでした。
福岡市が実施したINNOVATION STUDIO FUKUOKAで知り合ってから,
今ではさまざまな形で矢野さんとお仕事をする機会が増えました。

私をここに導いてくれたのも矢野さん。

いつもはSNSでお子さんと微笑ましい姿を見せてくれはいますが,
実際に彼がどんな風に仕事をし,どんなことを考えているのかを
ちゃんと聞いたことはありません。

今回のバトントークでそれが少しでも見えるといいなと思い,
矢野さんにお願いすることにしました。

矢野さん,よろしくお願いします!

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