九州アートディレクターズクラブ

BATON TALK

Posted on 2018-11-14

はじめに

初めまして。いつき屋の矢野です。

飛田先生から「バトンを渡すからよろしく」と言われから、さてさて何を書こうかと考えていました。

  • 職業、ビジネスサイコパス
  • 孫子の兵法とブロックチェーン
  • 社会学としての妖怪とブランディング
    などなど

 

 

頭の中に浮かんでくるタイトルは、自分自身の大学時代から現在に至るまでの変質的な職業経歴を物語るものばかり。

「あれ、アートディレクションやデザイン関係ないじゃん・・・(汗)」

どんな内容にしたら、どんなことを書いたらバトントークとして面白いかと考えていました。

 

執筆内容を決めたのは、締め切りが1週間前に迫った11月3日。
九州ADCアワード2018 アフターパーティの会場、バトントーク経験者とお話しさせていただいている時に「デザイナーではない矢野さんがデザインをどのように捉えて活用しているのかにも興味がありますよ」という暖かい言葉をいただきました。

 

 

「妖怪とブランディングについて熱く語る1万文字」

Suuhi Nurarihyon.jpg
By Sawaki Sūshi (佐脇嵩之, Japanase, *1707, †1772) – scanned from ISBN 978-4-336-04187-6., パブリック・ドメイン, Link

 

 

9割がた上記のテーマで執筆することを決めていましたが、テーマを変更し僕自身がデザインをどのように捉えているのか?ということテーマにしたいと思います。

 

 

 

目次

 

 

改めましてタイトル「レトリックとしてのデザイン」

本記事では、経営戦略や事業設計、サービスデザイン、リスクマネジメントを生業にしている筆者が「どのようにデザインを捉え、そして活用しているか」について書きたいと思います。

 

 

 

自己紹介

改めまして、いつき屋の矢野です。

自己紹介と書いておきながら、詳細な自己紹介は割愛します。

ここのところの5年くらいは、

 

  • 芸能プロダクションの業務執行取締役なのに、1000日間の育児中心の生活を送ってみたり
  • 何のコネもツテもないのに個人事業主として完全成果報酬のコンサルティングの事業を立ち上げたり
  • 地域コミュニティのブランディングにP2P(インターネットの概念)を用いた理論を研究したり
  • 起業者とフリーランスのマッチングについて研究したり
  • 攻めの経営戦略から守りの経営戦略「リスクマネジメント」の会社を立ち上げたり

 

「で?何屋さんなの?」という質問に答えられないこともあったのですが、

最近では一言で「外注の番頭さん」と言うようにしています。

 

外注の番頭さんって、必要なの?って気もしますが、

意外に経営者の方って「ビジョンはこんな感じ」でも実際にいくらかかって、どうすればいいの?みたいな

予算、戦略、計画といったことに対しては、まだまだ詰めきれてないことも多々。

 

そう言う時に、調査や観察などを行って、客観的に分析を行ったり、戦略設計や事業設計から具体的な指標や行動を考えたり、経営者の右腕的な役割で事業が円滑に進むようにサポートをさせてもらってます。

 

当面の目標は、「九州支店経済からの脱却を実現する少額投資法人の設立」です。

 

 

デザイナーでもない僕が、なぜ九州ADCと関わるようになったのか?

2014年以前から会員だった方は、アワードの打ち上げのパーティを覚えていますか?

実は僕、その打ち上げのパーティで司会をしていました。
「さかなクンのモノマネ」という演出をつけられた司会の男です。

 

 

アワードのテーマが「競り」でビジュアルも魚市になっていました。

「矢野君って顔が、さかなクンに似てるよね」というフリで、さかなクンの衣装を用意してもらいました。

たくさん練習して見事に「さかなクン」として司会をこなしました。いや、さかなクンに似ているから「似魚(にざかな)クン」という新しいキャラとして司会をしました。

 

 

2014年10月24日、愛知県豊橋市にて
By 環境省ホームページ, CC 表示 4.0, Link

 

 

ちょっとだけ真面目なこともやってまして・・・。

九州ADCが一般社団法人を設立する際に、法人設立のための書類の作成や税務関連の申告、九州ロゴマークの公募の際は梶原代表と一緒に会員の皆さんの声を集めて提言書を作成するなどのお手伝いをさせていただきました。

 

 

それはさておき・・・。

業務執行を担当していた当時の僕の課題は、絶対的なリソース(ヒト、モノ、カネ、情報)全てにおいて「足りない」中での新規事業をいかに立ち上げるか?でした。

もっと細かく分解すると、

「成功するか失敗するかわからない事業に、どうやって人を巻き込んでいくか?」

 

  • 資源が豊富にあれば、トップダウンで組織を作れるのに。
  • 論理的に何が必要か?みんなわかってるはずなのに。

 

 

でも、実際はビジネスにおいて必要性を証明できるようなものはないし、成功か失敗かはやってみないとわからないことがほとんど。まして、大企業でない限り潤沢なリソースなんてあるわけもない。

 

 

さて、どうしようかと模索していた時に、

注目した分野が「P2P」と「デザイン」でした。

 

 

P2Pとはインターネットの情報通信のモデルの一つです。

その概念を用いてコミュニティを設計していく理論を提唱したのが、崇城大学の星合隆成教授です。

最近はやりのブロックチェーンなどもこの「P2P」をベースにしているのですが、星合教授がNTTの研究員時代に初めて提唱しています。

残念ながら、今回はデザインについてテーマを設定しているので、「P2P」については星合隆成教授の著書をご紹介させていただきます。

ご興味がある方はこちらを

 

つながりを科学する 地域コミュニティブランド
※事例として担当したプロジェクトをご紹介頂いています。

 

 

さて、つらつらと前振りを書いてきましたが、これからが本題。

「どのようにデザインを捉え、そして活用しているか」についてです。

 

 

「レトリック」とは?

みなさんはレトリックと聞いてどんなことをイメージするでしょうか?

言葉遊び、詭弁、そもそも聞いたことがない・・・

 

 

まず初めに、レトリックについての紹介です。

日本語では、修辞学と呼ばれています。

 

 

20世紀まで「人が持つ必要がある技芸(実践的な知識・学問)の基本」と見なされた自由七科(リベラルアーツ)という科目があり、その中で主に言語に関わる三自由学科として

 

  • 論理学(弁証法)
  • 修辞学
  • 文法学

 

の3つがありました。この修辞学のことをレトリックと言います※詳しくはwiki

 

 

さて、なぜこの修辞学が必要かということについて、渡部昇一先生がレトリックの時代という著作の中でこのように書かれています。

“人は一人では生きられないと良く言われるように、人との生活にとって他人との交わりは大きなウェイトを占めている。〜中略〜人対人の関係を知的に構築する方法の一つとして修辞学(レトリック)を生んだのである。”

引用 「レトリックの時代」講談社学術文庫 渡部昇一

つまり、他者との人間関係を円滑にするための技術の一つとして必要だということなんですね。

 

 

「げんこつ」と「手のひら」

では、論理とレトリックはどのように違うのか?

「論理はげんこつ、レトリックは手のひら」に例えられます。

 

論理は、ある真理があることについて証明を行うものです。

 

例えば科学や数学などの公式などを思い浮かべて欲しいのですが、「三角形の内角の和が180°」ということは証明されています。

 

これを覆そうと思うと証明の間違いを指摘しない限りは議論の余地がないのです。

論理学では客観的な真理さえ提示すれば、相手は否応なく屈服しなければいけないというかなりハードな、げんこつで相手を説得するようなものだと言われています。

 

「知に働けば角が立つ(夏目漱石)」

 

とはよく言ったものです。

はてさて、こんなハードな方法で他者が動いてくれるでしょうか?

先述しましたが、ビジネスにおいて必要性を証明できるようなものはないし、成功か失敗かはやってみないとわからないことがほとんどです。そんな中で論理だけでは人間関係が上手くいかないというので、論理に頼らない説得術がレトリックです。

 

 

レトリックの5つの分野

専門家ではないので、またまた上述の渡部先生の著書に書かれている修辞学は分類を紹介します。

レトリックは5つの分野に分かれているそうです。

 

  • インベンションーテーマの発見
  • アレンジメントーテーマを並べて組み立てる
  • メモリーー実例の盛り込み
  • エロキューションー言葉を飾ること
  • デリバリーー発音の仕方、身振り手振りをしかるべく入れる方法

 

そして、インベンション-テーマの発見は「オブザベーション(観察)」によってされるものだそうです

※フランシス・ベーコン「経験論」

 

これってデザインのフローにも似てるんじゃ。

 

ちょっとレトリックのフローに沿って、先日行われた九州ADCアワード2018の受賞作品についての考察です。

熊本の震災の時に廃材として出たブルーシートを使った「ブルーシードバッグ(佐藤かつあきさん)」の作品は、震災の当事者として観察によって得た廃材のブルーシートというテーマの発見が評価されたのでは?考えています。

 

グランプリを受賞した「STOP DV(SYNCHRO 永松崇さん・村尾彩さん)」は、インベンション〜デリバリーにおいて優れていると評価されたのでは?と考えています。

 

「DVはダメだ」という主張に対して、「これこれこうで、カクカクシカジカ」と論理を展開したとしても、きっと多くの人にスルーされていたテーマかもしれないと感じます。

エロキューションには、愛情がズレただけ? いいえ、暴力です」とコピーが出て、さらにグラフィックの表現。

 

画像引用:福岡県HP(http://www.pref.fukuoka.lg.jp)

 

県のホームページでは様々なデータが公表されており5人にひとりがDV被害者であることを伝えています。

“DVは犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害です。どんな理由があっても、暴力は決して許されるものではありません。”

しかしながら、このデータや主張だけでは、多くの人がジブンゴトとして捉えることはできなかったんじゃないでしょうか?

このデザインには非常に多くの人たちを説得し得る力があると考えます。

 

ここまでは、レトリックについて考えていることを書いて来ました。

本稿のテーマはデザイナーではない筆者が「どのようにデザインを捉え、そして活用しているか」です。

 

 

レトリックとしてのデザイン

論理では証明できないこと、主張を証明するだけでは他者を説得することができないことだらけです。

 

そのような中で、言葉を使った人対人の関係を知的に構築する方法の一つとしての修辞学ですが、最近の傾向ではより非言語でのコミュニケーションに偏りつつあります。

 

オブザベーションからデリバリーまで、言語だけでなく非言語でも。

そっと手のひらで背中をさすりながら、相手に行動を促すことができる。

 

レトリックとしてのデザインを制するものが、現代社会においてより多数を説得する力を持つ。

そんな時代が来ているのかもしれません。

 

注:文中で説得という言葉を使っていますが、共感も大きくは説得の中の一つとして記述しています。

 

最後に

今、取り組んでいるプロジェクトに「食生活の行動変容プログラム」の開発があります。

 

「規則正しく、バランスの良い食事を食べましょう」という当たり前のことをサービスにするものです。

 

はっきり言って、「何を当たり前のことを?」と言葉にして説明すればみなさん納得はします。

 

しかし、行動が変わらないんですよね。言葉だけだと。

 

そこで、デザインとインターネットを使った新しいサービスを開発しています。

 

今回のバトントークでは「レトリックとしてのデザイン」としてとして概念的な部分をお話しさせていただきました。

各個別なプロジェクトはまた別の機会にお話し出来たらと。

 

ーーー

筆者

いつき屋 矢野裕樹
k-adc.net/member/yano-yuki

九州支店経済からの脱却を目標に少額投資法人の設立を目指しています。

 

いつき屋 / シェアオフィス UWAYABASE / 合同会社日本総合危機管理

 

次回のBATON TALKは・・・

pass the baton!

僕からバトンをお渡しさせていただくのは合同会社 SYNCHRO
のアートディレクター・デザイナー 村尾彩さんです。

みなさんご存知の通り、九州ADCアワード2018で「STOP DV」の作品でグランプリを受賞された方です。

彼女が、どのようにこのバトンを紡いでくださるのか。
とても楽しみにしています。

それでは、村尾さんよろしくお願いします。

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